●質問
推しのことが好きすぎて、仕事が手につきません。どうすればいいのでしょうか?
●回答
推しとは、端的に言って、憧れの人です。
憧れというのは幻ですから、それをどこまで追いかけても「無」であり、推しを追いかける人生ほどむなしいものはないとも言える、というのが、精神分析の教えの1つです。
しかし、私たちは、程度の差こそあれ、推しを推さないと生きづらい。だから皆さん、推しを推しています。たとえば、特定の野球の球団が好きとか、特定の韓国アイドルが好きとか。
推しを心理学の別の方面から言うなら、推しとは「もうひとりの自分」です。
例えば、イケメンアイドルを推している人にとって、そのイケメンアイドルとは「もうひとりの自分」、すなわち鏡に映るあなたです。あなたの心の中にイケメンアイドルのような、「もうひとりの自分」がいるのです。
推しは男で、あなたは女性、ということによって、男がなぜあなたという女を意味するのか訝しく思うかもしれません。しかし、もしもあなたが男に生まれていれば、あなたは推しのイケメンアイドルのような生き様をしていたかもしれない。このようなことが精神分析の方面から言えます。
あるいは、推しと親しく口をきいている自分を妄想しているのであれば、あなたは推しという鏡を通して、自分の自己像を3割増しで「素敵な女性」と思っています。
推しに限らず、すべての他人は自分を映す鏡です。私たちは自分の自己像が3割増し、5割増しで素晴らしく感じることのできる相手を推すのです。そして、その推しとは、あなたの心に宿っているもうひとりの自分なのです。
すなわち、推しを推すというのは、ナルシシズムの極みなのです。
以上のことから、推しを推しすぎて仕事が手につかない人というのは、自己愛が非常に強い人であり、その強すぎる自己愛ゆえ、仕事が手につかないと言えます。
では、どうすればいいのか? 早く目を覚まし、あなたの周囲にはさまざまな人がいるということに気づくべきでしょう。あなたの周囲には本当にさまざまな人がおり、そのひとりひとりが「推し」ほどに魅力的なのですから。
※参考 拙著『希望を生みだす方法』玄文社(2022)